冷たい舌

 厭なのにな。

 皆みたいにお前を女神のように崇めるのは―

 そうしたら、俺も、その辺の奴らと変わらなくなり、お前の興味の対象から外れてしまうような、そんな気がするから。

 そんな無意識の不安から、余計に透子を幼馴染として、邪険に扱ってきた。

 川の傍まで行った自分を、透子は縋るように見つめ、駆け寄ってくる。

 月の明かりに温められたのか、生温かい水の中に足を踏み入れると、透子は自分にしがみついてきた。

 和尚、和尚、和尚っ!

 助けて― という言葉は最後まで出ない。

 透子はその場に座り込もうとする。

 和尚はその白い丸い頬に触れ、自分の方を向かせた。

 吸い込まれるような濡れた黒い瞳が自分を映す。

「透子― 今更、なんに怯える?

 お前は本当は記憶を失ってなどいないんだろう?」

 お前を怯えさせるものなど、もうこの世にないはずなのに―

 背後にたゆたうのは、見たこともない紅い月。