冷たい舌

「お前、それ― 何を封印してるんだ」

「え……」
 口篭る透子を和尚はあの魔眼で見つめる。

「俺はずっと、あのときの記憶を封印してるんだろうと思ってたんだが、どうやら違ったようだな」

「あ、あのときって?」
 上ずる声でそう訊いてみたが、はなから無駄だった。

 掴んでいる手に力が籠もる。

「お前、さっき天満さんに俺が突っ掛かったとき、止めたろう。

 何を揉めているんだとも訊かなかった」

 透子、といつもは好きだと思うその低い声が、重く呼びかける。

「お前― 本当は記憶をなくしてなんかいないんだろう?」

 透子はカーテン越しに、むなしく欠けた月を見上げた。

 なんで此処に来てしまったんだろう。
 こんな夢くらい、自分で処理できるはずなのに。

 こんな感情くらい……。
 なのに、なんで―

 今更思っても仕方のないことを思う。

 和尚はまだ透子の手を掴んでいた。
 重なった手は、あのときの記憶を蘇らせる。

 細い蜘蛛のような白い指。

 あの紅い淵から私を助けてくれた―

 助けて……
 助けて、和尚っ!

 かつての自分の叫びが耳に甦り、透子は目を閉じる。