冷たい舌

「でもさ、透子ちゃん、そんなこと言ってたら、一生結婚出来ないよ。

 龍神様はもうご神託はなさらないし。
 それに、君が巫女を降りたって、他の巫女を捜すよ」

「厭です。そんな、他の誰かが巫女をやるなんて」

 その思い詰めたような顔に、義隆は困惑する。

 何故透子がそんなに龍神の巫女に拘るのかわからなかった。

 透子は、ただ神職に尽くすしか能のないような人間ではない。

 交際範囲も広く、頭もよく、卒業した今も大学に残って民俗学の研究を続けている。

 巫女を降りても、他にやることはたくさんあるだろうし、それだけが透子という人間の価値ではないと、誰もが認めているのに。

「私はお母さんたちがさせたがってる普通の女としての人生なんて送りたくありません。

 そんなもの幸せだとも思えないし」

 透子はいつも他を圧するその黒い瞳で義隆を見据えた。

「私は、一生、龍神様の巫女でいるんです。
 そう、決めてるから」

 真摯なその態度に、義隆はそれ以上何も言えなかった。

「今日のことは僕からよく言っておいてあげるよ。

 でもね、透子ちゃん、君からみたら、ただの押し付けかもしれないけど。

 みんな、君の幸せを願って言ってるんだってことは、わかってやってよね」

 それを聞いた透子は、こくりと頷く。