ちょろちょろという手水舎の水音ががやけに耳につく。
夜の空気に冷えた土を踏むと、これまた、じゃりっという音が響いて、透子は息を詰めた。
本堂の前を横切り、住まいの方へと足を向ける。
真っ暗な龍造寺で、忠尚の離れだけが煌々と灯りを放っていた。
その光を避けるようにして、向かいの母屋の廊下から続く部屋へ行く。
案の定、そこは真っ暗だった。
透子はその部屋の壁に背を預けた。
昼間の熱が壁を通して伝わる。
辺りをほんのり照らし出す薄蒼い月を仰いだ。
なーにやってんだろ……私。
ガラス窓に触れた拳が、こつん、と微かな音を立てた。
はっと振り向くより早く、窓が開く。
「……なにやってんだ、お前」
透子は赤くなり、俯く。
最初から気づいていたのだろう。
和尚は窓を開けるタイミングを窺っていたに違いない。
「―入れば?」
素っ気無く言う彼に、
「いっ、いいよ。用はないから」
と、ふいと顔を逸らす。
夜中にこんなところまで来ておいて、用がないもないもんだと自分でも思いながら。



