冷たい舌

 



 透子が居なくなった車内は妙に静かだった。
 微かなエンジン音と、僅かな揺れ。

 沈黙を破ったのは忠尚だった。

「お前、あんまり天満さんとこ行ってないのか?」
「別に、何処も悪くないからな」

 俺もどっか悪いわけじゃない、と呟く。

 忠尚が何か言いたそうだと気づいていたが、素知らぬふりで窓の外を見る。

 車だと少し遠回りになるとはいっても、五分足らずだ。

 焦った忠尚がようやく口火を切った。

「なあ。お前ほんとは透子のこと、好きなんだろ?」

 答えない和尚に、
「否定しないの、初めてだな」
と多少の感慨を込めて呟く。

「お前も、春日の登場で結構焦ってんだろ?

 あれ、斉上さんとかと違って真面目そうだし、透子と相性よさそうだもんな。

 でも― 負けないよ、俺。

 春日だけじゃない。お前にだって、透子は渡さないっ」

「そんなこと言う前に、女の清算でもしたらどうだ」

 忠尚はいきなりブレーキを踏んだ。車体が跳ねる。

 おい、危ないだろと振り向くと、忠尚は計器の緑色の光を真剣な面持ちで見つめていた。

「俺、本気なんだよ。透子が好きなんだ」
「なんで俺に言う。本人に言えばいいだろ?」

 言えりゃ苦労しないよ、と忠尚は俯きがちに小さな声で言う。