冷たい舌

 



「あれえ?
 和尚、何処行っちゃったの?」

 知らねえよ、と忠尚は、仕事があるからと名残惜しそうに帰っていった春日の車のテールランプに向かって舌を出しながら言った。

「さっさと消えちまいやがった。

 俺、腹ン中からあいつと一緒にいるけど、ほんっと何考えてやがるのか、さっぱりわからねえ」

 そうね、と透子は腰に手をやり、
「でも、和尚から見ても忠尚が何考えてんのかわかんないと思うわ。
 いつ見ても違う女の人といるし」
と言う。

「あっ、あれはお前……友だちだ」

「ずいぶん、きらびやかな友だちが多いのねえ」

 からかうように笑う透子に、
「そ、それより透子。
 寄ってくだろ」
と忠尚が言ったとき、義隆が彼の後ろに立った。

「忠尚。お前、朝の掃除さぼったろ。ちゃんと割り当て残してあるから、さっさと行け。

 ―それから、透子ちゃん」

 その険(けわ)しい声に、透子は義隆に向き直り、急いで頭を下げた。

「ごめんなさい、おじさま。
 春日さんお待たせしちゃって。

 ほんとに逃げようと思ってたわけじゃないんです。

 逃げたかったのは確かだけど」

 素直にそう言う透子に、義隆は愛情の籠った溜息をついて言った。

「お見合い厭なのは、やっぱり龍神様の巫女で居たいから?」

「そうです」

 即座に言い切る透子に、義隆は諦めにも似たものを感じながら言った。