冷たい舌

 

 
 以前、車にぶつけられて入ったヒビもそのままの古いコンクリートの建物に、やけに派手で立派な中国製の赤い看板がかかっている。

 金で縁取られたそれの中には、壮麗な文字で『神凪(かんなぎ)漢方薬局』と記してあった。

 シャッターは降りていたが、看板に取りつけられている二つの小さなピンライトはついたままだった。

 路肩に少し乗り上げた車から、透子がとろとろ降りている間に、忠尚は横に回って他所の駐車場から、窓の明かりを確認していた。

 住居になっている二階の窓は暗かったが、一階には明かりがついているようだった。

「ねえ、此処、路駐してていいの?」
「こんな時間に車来ねえよ」

「それだけ避けてれば、充分通れるだろ」

 二人は振り返り、同時に言った。

「「お前じゃないんだから」」

「サラウンドで言わないでよっ」
と透子が拗ねている間にも、忠尚は塀の横を通って、勝手に裏口に回るとガンガンドアを足で蹴っている。

「天満さあんっ。開けてー」

 それを見ながら和尚が言った。

「お前、結構此処、来てるんだろ」

「呑みの帰りとか酔い覚ましにな。酔ったまま帰ると親父がうるせえから。

 斉上さんもたまに連れて来るけど」

「私、あんまり来たことないなあ」

 塗り直した方がいいのでは、と思われる外壁を見上げて透子は呟く。