冷たい舌

「ちょっと。あれ本当に電気系統壊れやすいんだからね」

 洒落にならないこといわないでよ、と言いながら、遅れて透子も立ち上がる。

 その額に視線を這わせても、ぱっと見には、封印のことなどわからない。

 この俺に気づかせないとはさすが婆だ、と妙なところで感心する。

 だが、薫子が死んでもう二年、何故、この封印は生きた植物のように生々しいのだろう。

 普通、年数を経れば、何処かに綻びが出てくるはずなのに。

 誰かが補充をしているとしか思えない。

 だが、一体、誰が―?

「よお、天満(てんま)さんとこ寄ってくか?」
 店のドアを押しながら、忠尚が言った。

 天満というのは義隆の弟で、若い頃、さんざん海外で放蕩し尽くした挙句に、町外れに小さな漢方薬局を開いた龍造寺の変わり種だ。

「珈琲くらいなら出してくれるんじゃねえか」

 でも、もう遅いよ、と透子が忠尚の後ろをついていきながら、その服を引っ張る。

「大丈夫だよ、あのおっさん遅くまで起きてごそごそしてるから。

 一人もんだから、気楽なんだろ」

「天満さんって、モテそうなのに、なんで独身なのかしら」

「だから……モテるからだろ?」

 ちょっとの沈黙のあと、透子と二人囁き合う。

「忠尚が言うと、なんだか含蓄があるわね」
「含蓄があるっていうのか、そういうの」

 うるせえっ、と忠尚が振り返り叫んだ。