冷たい舌

 泥のついた袴をはたく透子の髪に千切れた茅が引っかかっていた。

「お前、髪に……」
と思わず指を伸ばすと、え? と透子があの黒い瞳を自分に向ける。

 思いがけず近くにあった顔に、つい不遜なことを考えた。

 が―

「透子っ! 和尚っ!」

 いきなりした怒声に、なんとなく予想していたとはいえ、溜息をつく。

 振り返ると、案の定、忠尚が林の方から駆け込んでくるところだった。

 息を切らして二人の横に立つ弟に、和尚は厭々ながらも訊いてみた。

「……なんの用だ」

 忠尚は汗で重くなった前髪を鬱陶しげに払って言った。

「なんの用だじゃねえよっ、お前等、それの何処が参拝だっ!?

 こんな薄暗い淵で、そんなに接近する必要が何処にあるっ」

 今日は厄日か? 龍也といい、忠尚といい。

 こいつの周りには、ほんと小煩くて目敏い男が多くて困る。

 あ、と透子が声を上げ、忠尚を指さした。

「薄暗いで思い出した。私はちゃんと日が落ちる前に帰って来たわよ」

「俺だって……、帰ってきたじゃねえか」

 まだ、はあはあ息を切らしながら、忠尚は言う。

 恐らく、間に合わないと思って走ってきたのだろう。