冷たい舌

 透子は拗ねたように薫子を見上げた。

『うそ。お祖母ちゃん。だって、この間も、そう言ってたけど、血が出てたわよ』

『なに、そんなの。お前の母親に比べればマシじゃろう。

 潤子さん、昔、お前の髪を切るとか言って、間違えて耳を切っておったわ』

 薫子は澄ました顔で言った。

 おそろしい一家だ……。

 ときどき、潤子がバリカン持って、和ちゃん、髪刈ったげようかとか言っていたが、やめておいてよかった。

『透子、和尚、ばあちゃん! クワガタ、クワガタ、大クワガタ!』

 近くの木の根元で、ごそごそしていた忠尚が、わさわさと脚を動かしている黒く光る虫を指で掴んで振り回している。

『ゴキブリじゃねえのか?』
 ちょっと悔しくてそう言った。

 違うってー、と忠尚は素直に叫び返す。

 悔しければ、一緒に捜せばよかったようなものだが。

 和尚は薫子の膝の上で、甘えるようにまるくなっている透子の顔を見て、つい微笑む。

 それを見ていた薫子が面白そうに言った。

『懲りない男だな、お前も。
 まあ、せいぜい地獄を見ぬように』

 にやりと笑った薫子をなんだかわからないまま、睨み返していた。