冷たい舌

 

 
 ミンミンと蝉の泣く青龍神社の夏。

 七つか八つだった和尚は、縁側で薫子が膝に透子を載せて、彼女の耳を掃除してやっているのを見ていた。

 年老いてなお、美しかった薫子。

 もともとは何処かの資産家の出だったらしく、品のよい婦人だったが、その切れ長の目の奥の眼光は公人よりも鋭かった。

『ばあちゃん、面白い匂いがする』

 縁側から足をプラプラさせて和尚は言った。

『ああ、これか』
と薫子は笑みを漏らす。

 決して、馴染みやすい笑顔ではないが、不思議と人を魅了するものがあった。

 嫁して三十年、今では公人よりもこの八坂で信望を集めていると言われるだけのことはある。

 彼女は濃茶の着物の懐から、奇麗な匂い袋のようなものを出して和尚に見せた。

『これは、私が呪法を行うときに使う香だ。
 お前も、そのうち自分に合ったものを捜すといい』

 いた……と小さな透子が声を上げた。

 長くて艶やかな透子の髪が今よりもっとあどけないその顔にまとわりついて、薫子の着物の膝の上に流れていた。

 和尚は透子の髪が好きだった。

 涼やかで清潔で、透子の匂いがする。
 和尚が一番、落ち着く匂いだ。

 耳を押さえようとする透子の手をはたき落として薫子は言う。

『ほんにお前は痛がりじゃのう。たいして引っかいておらんわ』