冷たい舌

 




 十年前、八坂祭りを控えて潔斎中だった透子は部屋を抜けだし、黄昏時の淵へと来ていた。

 ところが、たまたまそこを訪れた和尚と顔を合わせてしまい、驚いて足を滑らせ淵へと落ちた。

 和尚に助けあげられた後、しばらくして、なんだか足の間に、厭な感じがした。

「どうかしたのか?」

 そう問う和尚に、慌てて手を振る。

「どど、どうもしないっ。早く行ってよ。和尚っ!」

 幸い潔斎中のため、緋袴をつけていので、わかるまいと思ったのだ。

「なに言ってんだ。お前、そんなんじゃ一人で帰れないだろうが」

 びしょ濡れな上に、体力を使い果たした様子の透子を気づかって、和尚はすぐ側に腰を落とす。

 いいから、帰れ~っ。

 変なとこで優しいんだから、もうっ。

「いいのよっ。和尚と帰ったら、お祖母ちゃんに言いつけ破ったことばれちゃう」

「ああ、男と会うなって奴な。会っちゃったんだから、しょうがねえだろ。

 婆には俺が怒られてやるよ。まったく」
と和尚は透子に背を向けた。

「え?」

「乗れよ。おぶっていってやるから」

 透子は泣きそうになりながら言った。

「和尚……わたしね。女の子になっちゃったみたいなの」

 ばば、ばか、なに言ってんだよ、おめえ、と当時の自分に突っ込みたいところだが、そのときは動転していて、旧時代的な言い回しの恥ずかしさには思い至らなかったのだ。