ざっと荷物を手繰り寄せ、乱雑に鞄に詰める。


瞠目する日向くんの隣をくぐり抜け、肩に引っ掛けた鞄ごと部屋を出て、自動販売機が並ぶ廊下に急ぐ。ここの自習室でこれ以上騒ぐわけにはいかない。


進学塾ならではなのか、この塾にはもう一つ自習室がある。


勉強している人もいれば、おやつと参考書片手におしゃべりしている人もいる、飲食可能な自習スペース。


さっきの飲食不可のところより少し開放的で、ついつい遊んじゃうという理由でみんな避けるので、お昼とかおやつとかの時間帯でなければ人が少ない。

フードコートの椅子みたいに硬くてクッションなしの椅子だから、長時間使うには向いていないのもあると思う。頭を冷やしに行くにはちょうどいい。


静かに、けれど最大限急いで移動して、隅の席に鞄を置く。硬い椅子を引いて座ると、もうだめだった。


唇をきつく結んでおかないと、いろいろが漏れ出しそう。


……絶対日向くんびっくりしてる。ほんとごめん。


せめて、やだじゃなくって大丈夫って言えばよかったな。花粉症ってことにすれば誤魔化せたかな。でも、一年中花粉症のせいにしたら、さすがに余計に心配されそう。


「左京さん左京さん、ごめんね。待って」


うつむいてぐるぐる考えるわたしに、後ろから日向くんの声がした。


なんとか顔を取り繕って振り向くと、その肩には鞄がかかっている。せっかく人気の方に席取りをしたのに、荷物をまとめて持ってきたらしい。


こんなときでも、彼は律儀に二度呼ぶ。