耳を隠そうとじりじり顔を背け、日向くんの言葉を噛み締めてぼうっとしていたわたしは、左京さん、と呼ばれたのに気がつかなかった。


「左京さん左京さん」

「う、うん? なに?」


怪異になっちゃうとこだった、と日向くんは律儀に呼び直してくれたけど、わたしは図らずも古文で学習した「いま一声呼ばれていらへんと」ってやつになってしまったので、全面的にわたしが悪い。


慌てて顔を上げる。


「左耳、なにか気になるの? かゆい? 花粉症?」

「ち、違います」


ごめん、心配をかけてしまった。


「気になるなら俺、見ようか」


善意の申し出とともに、指先が髪に触れる。


「や、やだ……!」


思わずその手を払う。耳のせいばかりでなく全身が熱い。泣きそうだ。


静かな自習室で大きな声を出したものだから、視線が集中した。抑えても響いた声に、なおさら泣きそうになる。


わたしってば何をしてるんだろう。真剣に勉強してる人たちに迷惑をかけて、日向くんに失礼なことして、ほんと、ほんと……!