約束の午後一時、五分前。

昨日も足を踏み入れた重役フロアで、私は社長室へ続く長い廊下を歩いていた。

廊下に沿うように並べられたガラスケースには、商品の蜂蜜がズラリ。

壁には会社の沿革を記した年表が展示してあり、何気なくそこを眺める。


Honey Factory Togo 株式会社 東郷蜂蜜。

はじまりは小さな養蜂園。
けれど、現社長の曾祖父である人物に経営者としての才覚があったのだそう。

、彼は思い切って養蜂園を閉めると、国内外問わず養蜂家と契約を結んでハチミツ販売の仕事を一気に拡大して取り組むようになった。

それが成功し、今の大規模な会社があるのだそうだ。

今いる東京本社の他に、名古屋、大阪、福岡に支店をもち、東北には去年改築したばかりの大きな工場がある。

健康や美容に効果のあるハチミツはいつの時代も老若男女問わず人気があり、東郷蜂蜜はなんと今年で創業百周年。

歴代の社長たちは常に新しいことに挑戦していて、現社長――ハチミツ王子こと東郷静也(とうごうしずや)も例外ではなく、彼は今、蜂蜜をたっぷり使ったフレンチトースト専門店のプロデュースに力を注いでいるんだとか。


……そんな、住む世界が明らかに違う彼が、こんな下っ端OLを呼び出す理由はただひとつ。

私は社長室の横の、腰の辺りの高さまである台座のようなものを見つめる。

ここには、昨日まであるものが置かれていた。

きらきらとはちみつ色に輝く、社長の宝物――とびきり大きな、トパーズの原石だ。

私は昨日、それを磨くように言われていたのだけど……



「――――中に入らないのですか?」