「やっと終わった……」


準備の整った会場を部屋の後方から眺めて、肩の力を抜きながらつぶやく私。

花も、料理も、祝電も、マイクテストも問題なし。腕時計を見ると、開始まではあと三十分の余裕がある。

パーティーが始まったら静也さんのそばにいて、ただ食事を楽しめばいいと言われているけど、彼はいろいろなお偉いさんと話すだろうから、“ただ楽しむ”なんてできないんだろうなぁ……。


「美都ちゃん」


ふと、背後にある出入り口の扉が開いて、名前を呼ばれた。

振り返ってみると、白いコックコートに身を包んだ創希さんがそこにいて、彼の手には一枚のお皿が乗っていた。


「創希さん! いつからいらしてたんですか?」

「ちょうど一時間前かな。店のほうは十一時のオープンからずっと満員だったけど、四時を過ぎたら落ち着いたから、ほかの従業員に任せてこっち来た」

「お忙しい中、ありがとうございます」

「いーえ。この味は俺にしか再現できないからさ」


彼が視線を落とした真っ白なお皿をのぞき込むと、フランスパンを使ったシンプルなフレンチトーストが二切れ。粉糖とはちみつがかかっていて、脇にホイップクリームが添えてある。

これが、今日の主役か……。