自己紹介をするのも忘れて、ただ呆然と創希さんに見惚れていると、華乃がにんまり微笑んで創希さんに耳打ちする。
と言っても声が大きいので、私にも聞こえたその内容とは。


「創希さん、たぶん押せばイケますよ。静也さんとはまだシてないみたいだし」

「ちょっと、華乃! 何を余計なこと言って……!」


っていうか、創希さんが私に対して“押して”“イケて”喜ぶ理由もないでしょうが!

思わず口を挟んだ私だけど、創希さんはふっと柔らかな笑みをこぼすと、華乃ではなく私の方を見ながら言う。


「本当? じゃあ遠慮せずに落としちゃっていいんだね、美都ちゃんのこと」


――ドキ。

それって……そういう意味、だよね?

もしかして、本当に私、モテ期が到来してる? だってこの数日間で、東郷社長に、上倉に、創希さん。

普通はモテ期って人生に三回あるとかいうけど、私の場合、神様の怠惰でこの一回に凝縮されてるんじゃ……。


「ご冗談……ですよね?」


くらくらしそうになりながら、何とかそれだけ尋ねると、創希さんは首を横に振る。


「華乃ちゃんに聞いたんだ、美都ちゃんの初恋が俺だって。……それ、俺も同じだからさ」


ま、ま、まさか……創希さんも、あの日私を……?


「色々な女の子と付き合ってみたりもしたんだけど、どうしても忘れられなくて。美都ちゃんの泣き顔と、その後の、花が咲いたみたいな笑顔がさ」


……ど、どうしよう。

自分でもおかしいと思うのだけれど、私、もしかして、揺れてる……?

胸に握りこぶしを置いてみると、その手にはっきりと振動が伝わるくらいに、心臓は暴れていた。