もし、自分がいつも口にしている通りに瑶を本当に妹だと思っていたら、この程度の事できれたりしないんだろう。


馬鹿だなって言って、皆と一緒に笑えると思う。


そうできないのは、後ろめたい気持ちがあるからだ。




瑶は妹じゃない。


妹だなんて一度も思ったこと、ない。


俺もあいつらと変わらないんだ。
欲にまみれたオスの目で瑶を見てる。



陽太には必死に取り繕ったけど、俺の苛立ちはおさまってなんかなかった。


目に映る全てのものが、聞こえてくる全ての音が、何もかも鬱陶しくて・・・

全部ぶち壊してしまいたくなる。




親父と俺を産んだ母親はお互いに不倫してた。
正式に離婚が成立するまでワイドショーのネタかっていうような、ドロ沼の争いを繰り広げた。

それに散々振り回された俺としては、親父の再婚は勘弁してよっていう心境だった。

出会った頃の瑶は親父にも俺にも頑なに心を閉ざしているように見えた。
だから瑶も俺と同じく結婚に反対なんだろうと思ってた。

けど、違った。

瑶は家族を欲しがっていた。

不器用で分かりづらいけど、親父や俺と本物の家族になりたいと願ってた。


瑤はずっと、俺に『お兄ちゃん』を求めてた。




「え!?昴?? 脅かさないでよ。
電気ついてないから、帰ってないと思ってた」

瑶の声で我に帰る。
俺は薄暗いリビングでテレビもつけずに随分長い時間を過ごしていた。

「寝てたの?」

「いや、起きてた」


昴も飲む? といって瑶は温かいレモンティーをマグカップにいれて、二つ持ってきた。

瑶が好きだと言っていたちょっと高いメーカーのやつだ。


「・・・引っ越し、今週末だって」

ソファを背もたれに床に座っていた俺のすぐ側で瑶はソファに腰をおろした。

他の女子よりはずっと長めにしている制服のスカートから白い膝がちらりとのぞく。
その白い膝にまで、俺はイライラを募らせた。

瑶は電気をつけなかった。

薄暗くてはっきりとは見えないけど、きっと瑶はあの寂しそうな微笑みを浮かべているんだろう。



「ん、親父から昨日聞いた。
約4年か。まぁ、よく持った方だろ。
いっても、夫婦らしくしてたのは最初の1年だけだけどさ」

少し前に、長らく仮面夫婦状態だった両親の離婚が正式に決まった。


あと数日で、俺と瑶は他人に戻る。