流れ星に4回目の願いを呟く時。

「もうすぐだな。」


 海が見える。それだけで青年は嬉しかった。


 自転車を軽く飛ばして、小学生たちの登校班の群れを追い越し、渋滞にはまる車たちを颯爽と抜いていく。


 青年の楽しみは決まって朝だった。海沿いを走る国道は毎日、いい風が吹いてくれる。


 毎晩の残業で身体はクタクタで、お酒をあおってみてもそれは楽にならないが、この通勤路だけは彼を癒してくれた。


「おはようございます。」


 自転車を停め彼が向かって来た先は、庁舎を入って一番右奥に位置する少し古びた部署。そこには、総務課と書かれた札が天井から釣り下がっており、向かい合うように並べられた机の上には、どこもかしこも書類の山と、カタカタと鳴り響くパソコンの起動音で充満している



「ああ、先輩おはようございます。昨日の報告書出来たのでチェックお願いします。」


 彼が席に着くと、後輩らしき女性職員が近寄ってきた。


「おお、結構早かったね。でも、報告書なら係長に見てもらうのが一番だと思うよ。俺、まだ平だし。」


「いや、係長が先輩に見てもらえって、昨日言ってきたんです。」


 朝の庁舎はまだ職員の数も疎らで、早くから出勤しているのは若手職員か守衛さんくらいである。


「全く、係長は仕事しないから困るよな。」


 そう言うと青年から笑みがこぼれた。


「そんな。笑ったら怒られますよ。」


「良いんだよ。実際そうだよ。ここに来てもう3年目だけどさ、俺一回でも係長が真面目に仕事してるの見たこと無いよ。まあ良い。せっかく仕事を回してくれたんだ。俺が手柄を上げて係長より早く出世して、驚かせてやろう。」


 そう言って青年は後輩から報告書を受け取った。


「もう、知りませんよ。」


 そうは言いながらその後輩らしき女性も、笑みをこらえきれず、2人して静かな総務課の朝を賑わせていた。