私はこれから故郷である、あの温かい風の吹く町へと帰る。


 そしてこれは、私が友枝で過ごす最後の春の思い出である。


 父の転勤に伴い、もうあの家には名前も顔を知らない人たちが暮らしている。学校はその後、耐久工事の為に取り壊され、若者たちの淡い思い出だけを残して、今は新しい校舎に生まれ変わっていることだろう。


 私があの町で過ごした思い出の日々は、いつもカケルとのものだった。同級生に恋に落ち、その彼に想いを告げられずに後悔したあの頃。それに苦しみ、乗り越えようとした日々。


 それを今は凄く、懐かしく思うよ。