おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―

―――五十鈴さんと婚約してるんでしょ?

私なんかと同居してて大丈夫なの?


そう訊きたい。

でも、訊きたくない。


私がそれを口に出してしまったら、『そうだな、じゃあ同居はやめよう』と返ってくるかもしれない。

そんな答えは聞きたくない。

トラとの生活を失いたくないから。


ずるいな、私。

見て見ぬふりをして、気づかないふりをして、黙ってトラとのルームシェアを続けているのだ。


ごめんなさい、五十鈴さん。


でも、許して。

やましいことはないから。

私たちはただの友達だから。


それに、私だって苦しいから。

好きな人と一緒に暮らしていて、その人には決まった相手がいる―――こんなにつらいことってある?

だから、痛み分けってことにしてください。


「………うさ? 大丈夫か?」


トラが眉をひそめて、心配そうに覗きこんでくる。


「もしかして、具合悪いのか?」


いつもみたいに優しい口調。

私は口角をつりあげ、さっと顔をあげた。


「ん? 大丈夫だよ。それより、早くヘアピン外してー」


私はトラをソファに座らせ、その下に腰をおろし、自分の髪を指差す。


「はいはい、かしこまりました」


トラは安心したように笑みをこぼして、前髪にとまっていたヘアピンに手を添えた。