「………本当なの?」



無意識にそんな言葉が飛び出した。



「あの子、五十鈴さん………トラの婚約者って言ってた。本当に?」


「………ああ、本当だよ」



トラは静かな声で答えた。


わけがわからない。

見えない手に首を絞められたかのように、ぐっと息が苦しくなった。



「なんで言ってくれなかったの?

トラに付き合ってる人がいるなんて、全然知らなかった」



私はうつ向いたまま、膝の上で握った手を見つめながら問いかける。

すると、視界の端でトラが首を横に振るのが分かった。



「いや、付き合ってるわけじゃない」



私は「どういうこと?」と眉をひそめて、ちらりとトラを見た。


トラは表情の読めない顔でじっと私を見つめ返している。



「だって、婚約してるんでしょ?」


「婚約してるっていうか………決まってたことって言うか」


「なによ、それ」


「いや、それは………あんまり詳しくは………」



詳しくは言えないってこと?


私には言えない?

関係ないから?

私がただの同僚だから?



腹が立つけど、トラが言えないと言うものを無理やり聞き出すわけにはいかない。