おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―

トラは今、どこにいるんだろう。


あの子と何をしているんだろう。

どんな話をしているんだろう。


今まで一度もそんなことを考えたことはなかった。

トラはいつも私の目の届くところにいたから。



「………べつに、トラがどこで何してようと、どうだっていい。

トラは彼氏でも何でもないんだから」



自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。


でも、動揺は少しも収まらない。



………どうだってよくなんかないんだ。


私は、トラが自分の知らないところで、知らない女の子と一緒にいるということが、どうでもいいだなんて思えないのだ。



それって、どういうことだろう………。


私は―――。



「………うそ。私、トラのこと………」



私は仰向けた顔を手で覆ったまま、ぎゅっと目を瞑る。



そんなはずない。

トラは私の好みのタイプじゃないんだから。


………でも、それならどうして、トラの笑顔が勝手に瞼の裏に浮かぶんだろう。

トラの優しい声が耳に貼りついたようにして離れないんだろう。



そっか。

私、トラのこと、好きなんだ。

いつの間にか好きになってたんだ。



でも、トラには可愛い婚約者がいた。


気づいたと同時に失恋なんて、我ながら笑える。



「………あーあ。最悪」



自嘲的な笑みが唇に浮かんだ。



「別に、失恋くらい初めてじゃないんだし………何てことない。

むしろ、早く気がついて良かったっていうか。

本気で好きになってから婚約者がいるなんて知ったら、さすがにショックすぎるもん。

早く気づいて良かったよ、ほんとに………」