「お仕事中すみません、会田さん」


なるべくにこやかに、でも申し訳なさを滲ませることも忘れず、私は会田さんに声をかけた。


会田さんはあごのあたりを触りながらぼんやりと壁を眺めていたので、まったく『お仕事中』ではなかったんだけど、そこはマナーとして、ね。


「はあ? なに? 今、忙しいんだけど」


会田さんは案の定、迷惑そうに顔をしかめて振り向いた。


視界の端で、右足の貧乏ゆすりが始まるのを発見して、私は憂鬱になる。

あー、機嫌悪そうだな………。


「あの………お忙しいところ、大変申し訳ないんですが………概算請求の書類、昨日が期限だったと思うんですけど」

「あ? なんだって? 聞こえないよ、なんの書類?」

「あ、すみません、あの、概算請求の……」

「あー、あれね。チッ、この忙しいときに………」

「………すみません」

「で? いつまでに出せばいいわけ?」

「あの、昨日が締め切りでしたので、できれば今日中には………」

「はっ? 今日中? そんな急に言われても無理だよ! こっちは忙しいんだから!」

「すみません………」


頭を下げながら、なんで私こんなにへこへこしてるんだろう、とムカついてくる。

期限を守らなかったのは会田さんのほうなのに。


ていうか、今日中に延ばしただけでも感謝してほしいんですけど?

本当なら、『締め切り過ぎてんだから今すぐ出せ、馬鹿野郎!』とでも怒鳴りつけてやりたいところなのに。