思わず目を閉じて幸福感に身を委ねていると、ふいにドライヤーが止まった。


まだ乾ききっていないのに、と思って目を開けると、私の見たかった番組が始まっていた。

CMに入ると、再びトラはドライヤーのスイッチを入れた。


………すばらしい。

本当に気が利くね、トラは。



「ん、そろそろいいかな」


トラがスイッチを切り、確かめるように私の髪の全体に指を滑らせる。


「うん、いいよ」

「乾いてないとこ、ないか?」

「大丈夫。ありがと、トラ」


私は後ろを振り向き、トラを見上げてにっこりと笑った。


「トラって最高! 絶対幸せになれるよ、あんたみたいな男は」


なんの根拠もないけど、思ったことを口にしてみると、トラがおかしそうに笑った。


「どうした、急に」

「いやー、なんか唐突にね、そう思っただけ」

「ふうん?」

「トラって絶対いい旦那さんになるだろうし、いい父親にもなるだろうし、離婚とか絶対されないよ」

「それは結婚してみなきゃ分からないだろ」

「分かる分かる! 私が保証するよ」


うさに保証されてもなあ、と笑いながら、トラは読書に戻っていった。

私はテレビに向き直る。


それぞれ好きなことをしていて、沈黙が苦にならない。

本当に居心地がいい空間。


やっぱり、トラは最高のルームメイトだ。