「―――日比野くんってさあ」



私の正面に座った吉岡さんが、ビールの合間に砂肝をかりりと噛みながら、ふいに口を開いた。



「ほんっと、絵に描いたような『王子様』だよねえ」



お酒に酔ってなのか、それとも他の理由からなのか、

とにかく真っ赤な顔で、吉岡さんはそう言った。



その視線はまっすぐに、向こうのテーブルで皆と談笑している男―――日比野 悟(ヒビノ サトル)に向けられている。



私はビールの入ったジョッキをぐいっとあおり、


「あー、うん」


と適当な相づちをうった。



「まあ、みんなそう言うよねえ」


「なにそれ。宇佐美さんはそう思わないってこと?」



吉岡さんが怪訝な顔をしたので、私は慌てて首を振る。



「ちがうちがう!

そういうわけじゃなくって。

ただ、日比野くんって、ほら………なんか、雲の上の人って感じがするからさ」



「ああ………なるほどね。それは、分かる」



「でしょ?

同期とはいえ、スタートラインからして違う気がするもん」



私の言葉に、吉岡さんはうんうんと頷いた。



「あんなに仕事できて、営業の断トツのエースで。

しかもかっこよくて、性格もよくて!

もう、あんな人間、実在していいわけ?」



そこまで言うか? と突っ込みたくなるほど、吉岡さんは日比野悟を褒めちぎる。



「ほんとにねー」



と頷きながら、私は笑いだしてしまいそうな口許を必死に引き締めていた。