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「あー、ねむい………」
翌週の水曜日、朝7時。
目が覚めて、それでも溜まった疲れはとれていなくて、私があくびをしながら洗面所に行くと、
同じように眠そうな顔をしたトラが鏡の前でひげを剃っていた。
「うさ、おはよ」
「おはよー、トラ」
ちなみにこの呼び方は、一緒に暮らしはじめて一週間ほど経ったころに決めたものだ。
『《宇佐美さん》ってさ、めちゃくちゃ呼びにくいな』
『あー、よく言われる。いいよ、呼び捨てで』
『ええ? おい宇佐美!って? さすがに偉そうじゃね?』
『そう? べつに私は気にしないけど』
『あ、じゃあちょっと省略して、《うさ》にしよう』
『なんかウサギみたい!』
『いいじゃん、めっちゃ呼びやすいぞ。うさー』
『じゃあ私も《日比野くん》って呼ぶのやめよう』
『下の名前でいいよ。そのほうが呼びやすいし』
『さとる? 意外と言いにくいな。さとる……さとら……トラ?』
私がそう言ったとたん、『その呼び方は人生初だ』とトラは大笑いした。
その表情が、会社で見る顔とはずいぶん違う少年っぽいものだったので、私はなんだか嬉しくなって、それ以来ずっと『トラ』と呼んでいる。
『うさぎとトラの同居かあ。無茶苦茶だな』
『いいじゃん、面白くて』
『そうだな。うん、いいな、うさぎとトラ』



