「日比野 悟くんがABC不動産に戻ってしまったことは、ラララ不動産にとっては大きな損失です。


ですが、我々もあちらに負けてはいられませんからね。


悟くんにいつか、『あのときラララをやめなければよかった』と言わせてやりましょう」




社長がひときわ声を大きくして言うと、みんなが一斉に大声で笑った。



私も、さすがにそれは無理でしょう、とは思いつつも、

でも、もしも本当にそうなったらすてきだな、と想像しながら笑った。



ラララ不動産は、最近のぼり調子だ。


毎年四月に入社してくる新入社員たちの質も、どんどん良くなっていると思う。


世間的な認知度もあがってきた。



トラの甘えのない仕事ぶりを近くで見ていた若手社員たちは、きっとこれから、『これが大手のやり方なんだ』と身を引き締めてがんばっていくだろう。



社長の言葉を生き生きとした表情で聞いている社員たちを見ていると、これからのラララ不動産の未来は希望に満ちて明るいような気がしてきた。




「ラララ不動産を、みんなの力で盛り上げていきましょう!」



社長の話はそう締めくくられた。


みんなが拍手をする。


すごくいい雰囲気だ。




………でも。


トラのことが過去のことになったような気がして、さみしい気もする。



しかたがないことだ。


トラは過去のものとして、心の奥ふかくにしまいこまなきゃ………。




私は自分にそう言い聞かせながら、いつものようにパソコンに向き直った。