「でもまあ、こればっかりはしかたがない。

彼はあくまでもABCの人間で、ABCに戻るべくして戻ったわけですからね」




社長が営業部のデスクのほうに目を向ける。




「営業部のみなさんは、これから彼のいなくなった穴を埋めるのがたいへんになると思います」




営業部員たちがぴくりと姿勢をただした。


営業部長が神妙な顔でうなずいている。




「ですが、がんばってもらわないといけません。

ここからが我々ラララ不動産の底力の見せどころですからね。


若手の諸君、悟くんのストイックな仕事ぶりを近くで見せてもらったわけですから、彼を目標に、そしていつかは彼を越えるんだというつもりで、精進してください。


悟くんの先輩にあたるみなさん、『ラララは日比野悟がいなくなったら駄目になった』なんて言われないよう、プライドを賭けてがんばりましょう。

私も全力でサポートするつもりですから、言いたいこと頼みたいことがあれば、なんなりと言ってください」




営業部の人たちの目の色が変わった気がした。



彼らは今まで、良くも悪くもトラの影響を受けていた。


どうせあいつには敵わない、と投げやりになっていた人もいるだろう。



だから、きっとこれからは、どんどん良くなる。