「悟くんはね、ああいう生真面目な性格だから、初めはそれも嫌がっていたんですよ。

親の七光りで会社に入るなんて情けないしみっともない、絶対に嫌だ、とね。


それでもまあ、私と向こうの社長で一生懸命に説得して。

うちとしても、悟くんのような優秀な社員が入ってくれれば万々歳だし、まわりに対する刺激にもなると思ったから、私も必死で勧誘しましたよ」



社長の話を聞きながら、トラらしいエピソードだな、と思って、笑いそうになってしまった。



トラは物腰が穏やかで、人当たりがいいので、温厚だと思われることが多いけど、

本当はなかなか頑固者なのだ。



自分の考えはなかなか曲げないし、とくに、自分がやりたいことや正しいと思ったことは、絶対にやりとおそうという意志がかたい。


それでも仕事をする上でまわりとぶつからなかったのは、言い方がうまいから、そしてトラが言うことは正しいからだ。




「しかし、私自身も、悟くんがあそこまで優秀な成績をあげてくれるとは思っていなかったので、正直、今回のことは非常に残念でした。

まったく、惜しい。

悟くん戻ってきてくれ! とABCの本社ビルに向かって叫びたいくらいだ」



社長が茶目っ気たっぷりにそう言うと、みんなが一斉に笑った。