「悟くんは、みんなも知っているでしょうが、昔から、あの通り非常に真面目で勉強熱心な子でね。


それに向上心も強くて、いざ大学を卒業して社会に出るというときに、ABCの社長さんとひと悶着あったんですよ」




社長の話をまとめると、こういうことらしい。



トラは、父親の経営している会社を継ぐつもりはもちろんあって、小さい頃から不動産業に関する勉強をしていた。


必要な資格も、充分すぎるほどに取得していた。



そういうわけで、ABC不動産の経営陣の側からしたら、すぐにでも入社して即戦力として働いてもらうつもりだった。



ところがトラは、それには首を縦に振らなかったのだ。


なぜかというと、『ABCに入ったら、俺は社長の息子として扱われて、甘やかされて、駄目になる』から。



そう考えたトラは、ABC不動産に入社することを断固拒否。


そして、ABC不動産ではない場所で、自分の素性をまわりが知らない場所で、自分の力を磨きたいと主張したんだそうだ。



それでトラの父親は、自分が昔から知っていて信頼のできるうちの社長に思い当たって、ラララ不動産の入社試験を受けるようにトラに言った。