しばらくそうしていたトラが、ゆっくりと顔をあげた。
そして、ぽつりと言った。
「うさ。………てて」
「え?」
あまりにも小さくて聞こえなかった。
だから、「ごめん、もう一回」と促す。
するとトラは、ぱっと顔をあげて私を見た。
睫毛が触れそうなほど近くに、トラの顔がある。
「なんでもない。気にすんな。
さ、早く乾かそう。風邪ひいちゃうもんな」
トラはいつものような穏やかな笑みを浮かべて、ドライヤーのスイッチを再び入れた。
きょとんとしている私を放ったままで。
そのままトラはいつものトラに戻り、いつものように微笑んで、
「じゃ、おやすみ。夜更かしするなよ」
と言って、自分の部屋に入ってしまった。
「…………おやすみ」
トラが何を言ったのか、わからないままだった。
でも、トラがいつもとどこか違っていることは分かった。
トラが消えた部屋のドアをじっと見つめる。
何も言わないドアを。
しばらくリビングに座り込んで、見るともなくテレビを眺めていた私も、日付が変わったころにはベッドに入った。
そうして、とうとうトラがいなくなる日が来たのだった。
そして、ぽつりと言った。
「うさ。………てて」
「え?」
あまりにも小さくて聞こえなかった。
だから、「ごめん、もう一回」と促す。
するとトラは、ぱっと顔をあげて私を見た。
睫毛が触れそうなほど近くに、トラの顔がある。
「なんでもない。気にすんな。
さ、早く乾かそう。風邪ひいちゃうもんな」
トラはいつものような穏やかな笑みを浮かべて、ドライヤーのスイッチを再び入れた。
きょとんとしている私を放ったままで。
そのままトラはいつものトラに戻り、いつものように微笑んで、
「じゃ、おやすみ。夜更かしするなよ」
と言って、自分の部屋に入ってしまった。
「…………おやすみ」
トラが何を言ったのか、わからないままだった。
でも、トラがいつもとどこか違っていることは分かった。
トラが消えた部屋のドアをじっと見つめる。
何も言わないドアを。
しばらくリビングに座り込んで、見るともなくテレビを眺めていた私も、日付が変わったころにはベッドに入った。
そうして、とうとうトラがいなくなる日が来たのだった。



