「お前、どんだけ欲張りなんだよ」


トラがそんなことを言うので、私はどきっとして振り向いた。

自分のトラに対する思いを見抜かれてしまったのかと思った。


でも、トラは可笑しそうに笑っているだけだった。


「食べたいケーキ、多すぎ」


それを聞いた瞬間、なんだケーキの話か、とほっとする。


「ま、今日は特別に、好きなやつ全部買っていいよ。うさ、今日は頑張ったからな」


柔らかく微笑みながらぽん、と頭に手を置かれて、胸の奥からぐうっと何かが込み上げてくるのを感じた。



―――好きだ。

やっぱり、私はトラのことが好きなんだ。


この笑顔も、言葉も、声も、手も、全部私のものになってほしい。


それくらい、好き。



でも、無理なんだ。



泣きたい。



「うさ?」


首を傾げて心配そうに訊ねてくるトラ。


「大丈夫か?」

「………うん」

「元気ないな………お前、ここで待ってるか? ケーキは俺が買ってきてやるから」

「………」


なんてひどいやつ。

私のものじゃないくせに、どうしてそんなに優しくするのよ。


優しくて、残酷。


私はまた笑顔を貼りつけ、「大丈夫だって、早く行こう」と歩き出した。