「………どうした? うさが甘いもんに反応しないなんて珍しいな」

「えっ」

「お前いつも、仕事で疲れたときとか、なんか嫌なことあってへこんでるときとか、甘いもの食べたらすぐ笑顔になって回復するだろ?」


その言葉で、トラが私のことを思いやってケーキなどと言い出したことを知った。


「………ううん、ちょっと疲れてぼーっとしちゃっただけ。ケーキ屋さん、行こ!」


私は満面の笑みを浮かべて、トラの手を引いてずんずん歩き出した。


「………ありがとね」


前を向いたまま言ってみたけど、トラは聞こえなかったらしく、「え? なんて?」と聞き返してきただけだった。


「ううん、何にしよっかなーって。チーズケーキかモンブランかイチゴのタルトか……あ、チョコレート食べたいかも。でもやっぱり王道でショートケーキもいいなあ」


早口でまくしたてながら、トラの手をにぎった自分の手の平の熱さを意識する。


別に、トラの手を引くのは初めてなんかじゃない。

一緒に暮らすようになって、徐々に距離が縮まっていって、何気なく触れ合うことに違和感は全くなくなっていった。


それなのに、トラのことを異性として意識するようになってしまって、こんなに軽く触れるだけのことにとてつもなく緊張してしまうのだ。


トラは他のひとのもの。

私のものではない。


だから、本当はこんなふうに触れちゃいけないのかもしれない。


でも、今だけは―――