おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―

何がいけないって、トラがいけないのだ。

婚約者がいるくせに私にルームシェアを持ちかけたりして………なに考えてるんだか。


しかも、いつまで経っても何も変わらないし。

出ていけとも言わないし。


進もうにも進めず、退こうにも退けない私は、いったいどうしたらいいわけ?


トラが悪いんだよ。

私を生殺しにしてるから。


「………トラの、」


ばか、と言おうとした、そのとき。


「あれ、うさ?」


突然、背後から声が聞こえた。

驚きのあまり、心臓も肩も跳ねる。


ぱっと振り向くと、トラがスーツのジャケットのボタンを外しながら中に入ってくるところだった。

営業の外回りから帰ってきたのだ。


「今、昼だよな。なんで外出てないんだ?」


不思議そうに訊ねられて、私は「あー、うん」とあいまいに頷いた。


「なに、仕事してんの?」

「まあね。外回り、どうだった? 収穫あった?」


訊ねかえすと、トラが「ん? おう」と小さく笑う。


「20軒まわって、1軒だけ、週末の現地説明会に来てくれるって家があったよ」

「へえ! やったね、さすが。説明会って、A町の5LDKの?」


トラは頷きながら鞄をおろし、デスクの椅子に腰を下ろした。


「そ。5人家族って言ってたから、ちょうどいいだろ」

「あそこ、高いからなかなか買い手つかなそうだと思ってたけど」

「でも、けっこう家賃高いアパートに住んでる人だから、いけそうだと思って。旦那さんの勤め先も大手企業だし」