おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―

「………なあ、うさ」


耳の下あたりに付いていたピンを引き抜きながら、トラが囁くように言った。


「ん?」


私は俯いたまま返す。

振り向くことは、なんとなく、できなかった。


「あのさ」


トラの息が耳にかかって、身体がかたくなる。

近いよ、ばか。


「なに?」と言って続きを待ったけど、トラはそれから何も言わない。


「トラ?」


先を促すように言うと、トラは「うん………」と小さく呟いてから、


「ごめん、なんでもない」


と言った。


―――なんなのよ。

わけ分かんない。


でも、無理やり言わせるわけにもいかず、私は「あっそ」と切り上げた。


トラはそれから口をつぐんで、黙々とヘアピンを引き抜き続けた。


気まずい………こんなの、初めてだ。

トラと一緒にいて、こんなふうに不自然に言葉が途切れて、沈黙を気まずく感じたのは初めてだった。



「………よし、終わり」



トラが空気を変えるように明るい声で言った。


ありがと、と呟いて、私は逃げるように脱衣所に入った。