おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―

ゆっくりと動く指が、丁寧な仕草で私の髪につけられたピンを引き抜いていく。


私はあまり髪を伸ばしていないので、アップにするとほつれ毛がたくさん出てきてしまって、大量のピンで留めてあるから大変だ。


こめかみ、耳の上、耳の裏、後ろ頭。


髪が引っ張られないように気づかってくれているようで、トラは左手で軽く押さえ、右の指でそっとピンを引き抜く。

おかげで少しも痛くない。


優しいね、トラは。

でも、その優しさは、誰に対しても向けられるもので………。

きっと、婚約者の五十鈴さんには、もっともっと特別な優しさを見せるんだろう。


私はゆっくりと瞼を閉じる。

トラの呼吸する音が微かに聞こえて、自分の心臓の音がやけに大きく感じる。


襟足のあたりのピンに手がかかったとき、トラの小指が掠めるように首筋に触れて、私は思わずぴくりと肩を震わせた。


「あ、ごめん」


トラがぱっと手を離して謝ってきた。

私はふるふると首を振る。

でも、言葉が出なかった。


なんでもない、とか、気にしないで、とか、こっちこそごめん、とか、そんなふうに答えるべきだったのに。


「………」


奇妙に気まずい空気が流れる。

トラの指が触れた首筋が、火傷でもしたように熱く感じる。


おかしいな。

トラの手に触れられたことなんて、今まで何度もあったのに。

好きだと気づいてしまったとたんに、こんなに意識してしまうものなんだ。