「じゃあ俺は…今まで何のためにあいつを捧げないで、ずっと…!」


「…いいではないか」


黒姫様は立ち上がると、冬斗のもとへより、座った。

そして美しく白い手を冬斗の頬に寄せ、ふっと笑った。


「…お前たち2人は、私たちのミスで大きな不幸を背負ってしまった。

幸せになる義務は、お前たち2人ともどちらにもあるのだ。

冬夜も幸せになる。お前も幸せになる。

神が言っているのだ。お前はもう、何も背負わなくていい…たまには我儘になるのだ」


黒姫様の顔を見開いた眼で見つめていた冬斗の目から、静かに涙が伝った。

その涙を黒姫様はそっとぬぐうと、私たちのほうを向く。


「…お前はまず感謝しなさい。

こやつらのおかげで冬夜は、お前に幸せになってほしいと望んのだからな」」


冬斗はまるで今気づいた、とでもいいたげに私たちのほうを見た。


「…冬夜が、くれるって言ってるんだ。
お前はもう、自分のことだけ考えてればいいんだぞ」

「あたし、冬斗にたくさん助けてもらったもん。
今度はあたしが冬斗を支えなきゃね!」


「…おかえり、冬斗。
私…冬斗にずっと、会いたかったの。

昔…冬斗と、離れてから、ずっと」


私の言葉に、冬斗はさらに目を見開く。
そして、ほおをほころばせた。

冬斗はうつむくと、静かに泣いた。
それを私たちは、彼が泣き止むまでずっと、見守っていた。