治癒術士さんは冬斗を心配そうにちらりと見たが、一礼して部屋を出ていった。

冬斗は少し落ち着いたのか、再び黒姫様のもとに視線を向けた。


「…冬夜。あいつの選択だ」

「…黒姫、お前が頼んだんだろ…
そりゃあ頼まれたら、あいつが否定できるわけないだろう…!」

「私は神だぞ、冬斗。

あいつが思っていることなどすぐわかる。本心からそう思っていない場合は、私だってそんな悪のようなことはしない。
冬斗、それはお前が一番わかっているはずだ」

…黒姫様は、正義感が強い。
どこかで聞いたその言葉に、いまさらながら納得した。


「…あいつは本心から望んでいた。願っていた。

早く自分も、お前のような仲間を見つけたい、と。
やり直して、全てやり直して、そして幸せになりたい、と。

…お前がひたすらに守っていた幸せ。あいつは気づいた。
それは、お前でなければ感じられない幸せだ、とね」


「…でも、俺は、」

「2番目というのか。まだそんなことを言うのかお前は。

冬夜が逃げるために作った存在であるお前は、多くの苦しみを背負ってきただろう…もうこれ以上、お前が苦しむ必要はないのだよ、冬斗。

…誰より望んでいるのは、悔しいが私じゃない。
あいつだ。冬夜が、そう望んでいた。


お前に、幸せになってほしい、と」



…冬斗は、その言葉を聞くと悔しそうにこぶしを握り締め、床を強く殴った。
唇をかみ涙をこらえる様子に黒姫様は少し息を漏らす。