なんとも言えない気だるさと、かわいた涙で頬の硬直感で目が覚めた。




「…起きたか」



「…ツクヨミ、様。
私はすでに、冬斗と…」



「冬斗。ただしくは、冬夜のもうひとつの人格。つまりあいつの本体は冬夜であって、冬斗ではない」



「…ツクヨミ様が私に言いたいことは、何なのでしょうか」



「…意外に冷静だな」



冷静、なのだろうか。
ただすとん、と頭に入った。

長い夢のような気もするが、確かに私はあの日冬斗に出会っていた。それは紛れもない事実なのだ。




「冬斗、あいつは契約を満たしていない。

人界での願いは叶えたが、代償を差し出していないのさ。

黒姫はあの場で父を代償にせずアイツにもう1人の人格を差し出せと言った。まあそれでも契約は形のようなものだから成り立つだろうからな。

けどあいつは冬夜という人格を差し出していない、これが事実。そしてもちろん瀕死の父親も。

お前は見ていないだろうが、あのあと何事も無かったかのようにあのホテルの経営は続いた。まあ、あの頃のように特別繁盛はしていないだろうが、な」