「ひとつ、聞いていいか」


「早くしなさい。
お前に与えられた時間はない。その男の命が尽きる前に」



私は途切れそうな意識を必死につなぎとめ、2人の会話に耳を傾けた。




「俺をこの世界から、解放してくれるのか」



「…もちろんだ」




その言葉を聞いた瞬間、何かが腑に落ちたような顔をした彼は…確かに少し微笑んだのだ。




「分かった。お前と共に行こう」




冬斗がそう言うと、美しい少女とも言える女性は1歩1歩と冬斗に近づいた。


「では、契約を始める。

お前のもうひとつの人格を、私に差し出せ」



「…聞いてないぞ」


「代償だよ。代償、そしてお前の願いをひとつ叶えない限り私はお前を神に戻すことはできない。これは決まりだ」


「…じゃあ先に、願いを言わせろ」



そう言うと冬斗は、彼女の耳元にそっと口寄せ、何かを呟いたようだった。

一瞬驚いたような顔をした彼女だったがすぐに元の表情に戻り、静かにつぶやいた。




「…後悔は、しないな?」