雪見月

今度は私の番だ。


感謝を込めてささやかなお返しをしよう。


あのね、冬の魔法使いさん。


たとえあなたにとっては当然のことでも、日常過ぎて覚えていなくても。


声をかけてくれたこと、私は嬉しかった。

温かかった。


そう。


今だってずっと、温もりを覚えてる。


この手を包んだ優しさを、私はいじましくも未だに忘れられないって、あなたは知らないけど。


お願いだから、どうか、「さよなら」なんて決別の挨拶はしないで。


あの温もりを、この温もりを、簡単に手放してしまいたくない。


目前の人へ必死に祈る。


たまに会ったら会釈くらいしても許してくれるかな。


目礼だって構わないんだ。


叶うことなら、私の我がままを一つだけ聞いて欲しい。


雪風が針葉樹の葉面を滑る。


「ありがとうございました」


お礼を告げて、願いが通じたかのように彼は微笑んだ。


不器用なその声が月明かりの美しい夜を震わせて、真っ暗な静寂を押し戻す。


しんしんと降り積もる雪が、真っ白な恋の始まりを静かに幕引いた。




Fin.