雪見月

バイト先に連絡入れないとだよな。


これじゃ行けないし、仮に行けても役に立たない。


ええと、携帯携帯……はコートの右ポケットに入って、




ない。


「いやいや」


そんなはずはない。もう一度確認する。


な、い。


携帯どこだ? うわあ落としたのか?


それはかなりやばい。


焦って周りを見回し探していると、


「あの」


左上から声がした。


勢い良く顔を上げてから、その反動で今まで俯いていたことを自覚する。


シルエットを鑑みるに、上げた先に立っていたのは女子だった。


「お探しものはこちらですか?」


穏やかな声は理知的に聞こえる。


澄んだ、なんて詩的な形容詞が本気で似合う、綺麗な声。


逆光で顔の判別は不可能な少女がそっと手を差し出す。