「俺、さすがにこけたのはあれが初だったと思うんですけど……」


まさかこけていたんだろうか。


「違います違います、私ですよ」


そう言って差された指の先を見て、驚く。


「え、こけたんですか!?」


ぶんぶん首と手を振って否定しながら、苦しそうに彼女が笑っている。


「何でこけるのにこだわるんですか、違いますよ」


そうじゃなくて、ですね、と。


彼女が躊躇いがちに目を伏せる。


「私、受験の日、徒歩で学校まで向かってたんですけど、全然自信なくて。当日の朝になっても単語帳めくってたくらいギリギリで」


遅れたらもっと大変なのに、

しかも時間そんなに余裕なかったのに信号で止まったら単語帳、みたいにしていて。


「でも受かりたかったんです、西高。行った文化祭で西高生に憧れて、何としても、どうしても、受かりたかったんです」