雪見月

「ああごめん、これ、そこの窓に貼っておいてもらえる?」

「はい」


チーフに渡された、キャンペーンの貼り紙とテープと脚立を持って、外に出る。


渡されたのはA4のコピー用紙の束と、二つセットのカップケーキの写真だった。


美味しそうなカップケーキだ。


新作を売り出すつもりらしい。


そうだな、売り始めたら三つ、家族の分も買って帰ってみようか。


最近、俺より余程ぴりぴりしている母が、喜ぶかもしれない。


……そして少しは丸くなるかもしれない。

というか、なって欲しい。


そうしよう、とささやかな計画を立てながら、貼る位置を大雑把に決める。


俺に回される仕事は雑用が多い。


でもそれに不満はないし、初めは皆こんなものだろう。


強い風がたまに吹く。


手元の紙は薄っぺらいからか、吹かれて翻り、びしばし嫌な音をたてている。


気を付けようとは思ったものの。


「あ」