名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

……そうちゃんはそのとき、なんて思ったんだろう。


ふいの想像に怖くなる。


また面倒くさい幼なじみのお世話を押しつけられたって思ってないかな。

連絡先知っててどうするんだよって思ったんじゃないかな。


どうしても思考が暗い方に傾いて、嫌がられたのかもしれないって考えると、ひどく怖かった。


少なくとも、連絡してみようかっては思わなかったんだろう。お互いに一度も連絡を取ってない。


とにかくわたしは、「佐藤奏汰」と登録された名前を半ば手ぐせで「そうちゃん」に変えてしまって、はっとして、でもやっぱりそうちゃんにしておきたくて、悩んだ末にそのままにして。

あとは見ないように努めてきた。


削除してしまいたくて仕方がなかった。

嫌だった。悲しかった。


……どうして。どうして。


知らなければ、連絡したくなんてならないのに。


嫌だ嫌だと思いながら、目に焼きつけるようにその羅列を凝視する自分の浅ましさが、後先考えずにタップしようとする自分の醜さが、一番嫌だった。


ぐっと目を閉じて嫌な思考を振り払ってから、極力平坦な声音を心がけて聞く。


「佐藤くんはわたしの連絡先知ってるよね?」

「ん」


そうちゃんも消さないでくれたらしい。それは、なんとなくか、それとも。


わたしのためじゃなくていいから、幼なじみだからでもいいから、優しい理由だったらまだ救われる。

……そうだといいな。


「分かった。何かあったら連絡するね」

「ん」


少し顎を落として小さく頷いて、そうちゃんは変わらない密やかさでつけ足した。


「でも」

「うん?」

「家隣なんだし、別に直接会って連絡すればいいんじゃないの」

「っ」


そんな。そんなこと。


……その通りだ。その通りだけど、でも。


もう、後悔したくないんだ。