名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「佐藤さん」


そうちゃんの好きな色って何だろう、と横目で見つめるわたしに、そうちゃんは少し重い口調で呼びかけた。


お互いに緊張が走る。


「ん?」


雰囲気が変わりはしないかと、ことさら軽く明るい返事をする。


だけどやっぱり、そうちゃんの口調は変わらないままで、低く潜めた声は緊張感に満ちている。


「俺の連絡先知ってるよね」

「……うん」


きりりと痛んだのは、何。


思い出か。胸か。……抱える、思いか。


お互いの両親経由で、わたしもそうちゃんも、お互いの連絡先は聞かされていた。


お母さんもおばさんも、万が一があるから一応知っておきなさい、と口を揃えて言った。


その言葉は、初めて友達と連絡先を交換して浮かれた気分だったわたしを一転沈ませた。


万が一って何。

もし万が一があっても連絡しないなら、知っておかなくていい。

どうせ連絡しないんだから、知らなくていい。


……だって、そうちゃんの連絡先を知っていたって、その名前をタップできる日なんか来ないのだ。


嫌がったわたしのスマホに、いいから、とお母さんはやや強引に登録した。


万が一のときに、安全策が欲しいのかもしれなかった。


どうすることもできなくて、呆然と眺めていたのを覚えている。

知ってるよね、なんて問いかけに見せかけた確信のにじむ確認から推測するに、多分、そうちゃんもおばさんに同じようにされたんだろう。

もしかしたらそうちゃんは嫌がらないで、仕方ないなって自分で登録したのかもしれない。


ともかく、わたしがお母さんにそうちゃんの連絡先を登録されたのも、おばさん経由で聞いたんじゃないかな。