名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「佐藤くん」


呼びかけに、そうちゃんはちらりとこちらを見遣った。


「結論は出た?」

「出た」


意を決して短く頷く。


「どうぞ」

「嫌じゃない。ので、一緒に出かけたいです。けど、いいですか」


途切れ途切れに、でもどうにか目を見て言い切ったわたしに、そうちゃんは柔らかく笑って。


「ん。……よかった」

「っ」


ああもう、黙って心臓!


ばくばくうるさい音を立てる心臓にやきもきしながら、なるべく平静を装って足を進める。


「土曜でいい?」

「うん」


土曜日は一日あいている。


一日中……なんて、そう上手くはいかないだろうけど、そうちゃんといられるなら、できるだけ長く一緒に過ごしたい。


何を着よう。

そうちゃんはどんな感じの服が好みなんだろう。


いやほら、もちろん服はわたしの好みで着ていいと思うんだけど、ちょっとでも印象をよくしたいというか。

可愛いって思ってもらえたら、嬉しいというか。


もごもご自分に言い訳して、今さらのように思い知る。


好きでよく口ずさんでいた歌の歌詞を突然ちゃんと文字にしてしっかり突きつけられたような、胸にすとんと落ちる鈍い鋭さだった。


……幼なじみなのにな。

わたしは本当に、そうちゃんのこと、全然知らないんだなあ。


若干の寂しさと胸の痛みをまばたきに押し殺して、とりあえず淡い色合いのワンピースを着よう、と思った。


そうちゃんは小さいころ、わたしが淡い色合いのワンピースを着ていると、似合うとよく褒めてくれたから。


もちろん今と好みは違うだろうけど、それでもいい。


少しでも印象に残れば、少しでも好みにかすれば、それでいい。