名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「佐藤さん、電気消すよ」

「う、うん」


わたしを明るい方に移動させてから、両手がふさがっているにもかかわらず、そうちゃんが手首で器用に電気を消した。


パチン、と軽い音とともに、さらに暗くなる。


うっ……。


手分け、するべきだ。本当は。


手分けしたら早いのは分かってる、

二人で手分けして反対方向から順に置いていって、真ん中で合流するのが一番効率いいのは分かってる、でも……!


もうすぐ最終下校時刻なくらい遅い時間になってしまったために、いくら電気がついている教室があろうと、廊下は全くもって明るくない。


明るい場所より薄暗い場所の方が多い。


薄暗い、というか、普通に暗いと言えるような、つまりわたしが怖くて一人で行きたくない暗さなわけで。


廊下の電気は職員室で一括管理されている。いたずら対策らしい。

だから、電気はつけられない。


スマホの明かりで照らすには前に向けないといけなくて、そうすると片手が埋まるから、両手が資料で埋まっている状態では無理。


「…………」


情けないやら恥ずかしいやら怖いやらで、いっぱいいっぱいだ。


教室を出て暗さに怯んだときからすでに、何を葛藤しているかなんてお見通しなんだろう。


……猫の手くらいにはなりたかったんだけどな。


沈黙したわたしに、そうちゃんは優しく笑った。


「いい。一緒に行こう」

「うん。ごめん」

「いいって」


かくて、わたしは、夜の校舎で泣きべそをかかなくてよくなったんである。