名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「あのっ」


顔をうつむかせて作業を再開しようと手を伸ばしたそうちゃんを、慌てて遮る。


まって。待って。


まだ沈黙を破らないで。まだ余韻に浸らせて。


わたしにも、名前を呼ばせて。


「佐藤くん」

「っ」


呼ぶと、そうちゃんは弾かれたように勢いよく顔を上げて、固まった。


「佐藤くん」


もう少しはっきり呼び直す。


呆然とするそうちゃんに、ゆっくりゆっくり問いかけた。


「わたしも、真っ先に佐藤くんに頼ってもいいかな」


ねえ、そうちゃん。


わたしたちは幼なじみでしかないけど。幼なじみだからこそ。


「困ったら、わたしも真っ先に佐藤くんに言っても、いいかな」


泣き笑いみたいにくしゃくしゃに顔を歪めたわたしの、ぼやける視界で。


くしゃくしゃになったそうちゃんが、強張る首をぐっと振った。


方向は、縦だった。